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1980年代、ニューヨークのダウンタウンでは、美術館やギャラリーを抜け出したアートが街と結びつき、革新的な表現が次々と生まれました。地下鉄、壁、ストリートといった日常の空間はアーティストたちの実験場となり、資本主義的文化とアンダーグラウンド・カルチャーの境界は急速に揺らいでいきました。その中心的な役割を担ったのが、ケニー・シャーフ(1958-)とキース・ヘリング(1958-1990)です。
同年に生まれた二人は、1978年にニューヨークへ移住。スクール・オブ・ビジュアル・アーツで出会って以降、公私にわたって密接な関係を築いていきました。お互いや周囲のアーティストたちと日常を共有するなかで、従来の作品の枠組みや美術の概念そのものを拡張していきました。
本展では、シャーフとヘリングの関係性を軸に、二人による共同プロジェクトや相互の影響関係に光を当てながら、これまで紹介されてこなかった新たなヘリング像を提示します。さらに、シャーフが当館のために制作する新作を含む絵画や彫刻の多彩な表現を通じて、約50年にわたるキャリアで培われたシャーフの視覚世界を体感いただけます。
HIGHLIGHTS
見どころ
1980年代、ニューヨークのダウンタウンでは、アートが美術館やギャラリーの枠を越えて街や人と結びつき、新しい表現が次々と生まれました。地下鉄、壁、ストリートといった日常の空間はアーティストたちの実験場となり、資本主義的文化とアンダーグラウンド・カルチャーの境界は急速に揺らいでいきました。こうしたアートシーンの中心にいたのが、ケニー・シャーフとキース・ヘリングです。
同年に生まれた二人は、1978年にニューヨークへ移住。美術学校「スクール・オブ・ビジュアル・アーツ」で出会って以降、公私にわたる交流を深めていきました。互いに刺激を与え合いながら周囲のアーティストたちとも協働し、ストリートや音楽、クラブカルチャーと交差する新しい表現を展開しました。ヘリング没後初の二人展となる本展では、両者の関係性を軸に、彼らが切り拓いたアートシーンと表現の可能性を現在の視点から探ります。
シャーフ自身が企画に携わる本展では、シャーフの記憶や所蔵資料を紐解きながら、二人の共同プロジェクトや交友関係にも注目します。世界で唯一のヘリング専門美術館である中村キース・ヘリング美術館のコレクションを基盤に、作品と併せて写真やオリジナルグッズなどのアーカイブを展示。シャーフとの親密な関係性を通してヘリングを見つめ直すことで、その思想や表現の背景に迫ります。
ニューヨークからマイアミ、ロサンゼルスと拠点を移しながら現在まで継続して作品を発表し、ストリートアートのレジェンド、またアメリカの現代美術を代表するアーティストの一人として、国際的な地位を確立してきたケニー・シャーフ。日本ではこれまで、その活動が体系的に紹介される機会は多くありませんでした。本展では、ヘリングと共に活躍した80年代の作品だけでなく、近年のインスタレーションや最新のペインティングをあわせて紹介。約50年にわたる表現の広がりを、鑑賞体験を通して感じていただけます。
Artists
アーティスト略歴

ケニー・シャーフ(1958年カリフォルニア州生まれ)
1980年代ニューヨークのアートシーンを代表する存在であり、アメリカ現代美術を牽引してきたアーティストのひとり。キース・ヘリングやジャン゠ミシェル・バスキアと時を同じくしてダウンタウン・ニューヨークに現れ、アニメーション、SF、音楽の要素を取り入れながら、絵画、彫刻、映像、インスタレーション、パフォーマンスと多岐にわたる手法で独自の視覚世界を展開してきた。1980年代以降、環境問題にも取り組み、エコロジーへの意識を促す作品を継続的に制作している。鮮やかな色彩と有機的なフォルムを特徴とするその作品は、ユーモアと批評性を併せ持つ。
https://kennyscharf.com/

キース・ヘリング(1958年ペンシルベニア州生まれ、1990年ニューヨークにて没)
1980年代初頭にニューヨークの地下鉄で、黒い紙が貼られた広告板にチョークで描くプロジェクト「サブウェイドローイング」を始め、一躍その名を世に広める。1983年の初来日以降、展覧会の開催や自身のショップの2号店として「ポップショップ東京」をオープンするなど、日本でも多岐にわたる活動を展開。1988年には「エイズ」と診断され、翌年にキース・ヘリング財団を設立。1990年にエイズによる合併症のため31歳で亡くなるまで、精力的に活動を続けた。
FEATURED ARTWORKS
主要展示作品
本展は(1)キース・ヘリング(2)ケニー・シャーフとキース・ヘリング(3)ケニー・シャーフの3つのセクションで構成されます。最初のセクション「キース・ヘリング」では、二人の若きアーティストの出会いを象徴する、ヘリングの初期の映像作品《自分を角に追い込むペインティング》を紹介します。
——キースに初めて会ったときのことですが、SVAでDevoの音楽が流れているのを聞きました。「どこから聞こえてくるんだろう?」と思ってその音をたどっていったら、廊下の一室でキースが一人で絵を描いていました。黒と白だけの、ちょっとデュビュッフェみたいな感じでね。彼は部屋の隅に向かってどんどん描いていっていて、私はその部屋の外に座って見ていました。私はそのときに思いました。「これが、私がニューヨークに来た理由なんだ。こういう人たちに出会う必要があったんだ」と。
ケニー・シャーフ
2つ目のセクション「ケニー・シャーフとキース・ヘリング」では、二人の絵画や彫刻が一堂に会することで、その色彩や造形に見られる相互の影響や同時代性が浮かび上がる一方、シャーフのポップで宇宙的なイメージに満ちた世界観と、ヘリングの明快なラインによる象徴性という、それぞれの表現の個性も際立ちます。共鳴し合いながらも異なる方向へ展開していった二人の創作の魅力を、作品を通して体感いただけます。
本展で上映するドキュメンタリー『Restless – Keith Haring in Brazil』(本邦初上映)では、ブラジル、バイーア州の漁村に遺されたヘリングの壁画や床画にまつわる制作背景と、シャーフによるその修復プロジェクトを軸に、二人の作家の親密な関係性が描き出されます。1983年、サンパウロ・ビエンナーレを機に初めてブラジルを訪れたヘリングは、翌年シャーフに誘われてこの小さな村を訪れて以来、たびたびこの村に足を運びました。シャーフとの関係性を紐解くことで、ヘリングのパーソナルな側面や、協働を通じて発展していく表現が浮かび上がります。彼らの創造的な友情は、テクノロジーの発展により人と人との関係性が希薄で曖昧なものになりつつある現代において、情緒に満ちた豊かな営みとしても感じられることでしょう。
本展のラストを飾る「ケニー・シャーフ」のセクションでは、1985年に日本で行ったグループ展「アート・イン・アクション」展のために制作された作品や当時の記録映像、近年制作された絵画や彫刻、インスターレーション、そしてシャーフが当館のために描いた最新作の絵画を公開します。
中でも本展の主要作品のひとつである《Cosmic Cavern》は、シャーフが1980年代から現在に至るまで各地で発表を続けている代表的なインスタレーションです。最初に発表されたのは1981年で、MoMA PS1で開催された伝説的なグループ展「New York/New Wave」の会期中に、シャーフとヘリングは当時シェアしていたスタジオを一般公開しました。シャーフはその一室を用いて、本作の原型となる《Closet》を発表しています。空間にひしめくオブジェクトがブラックライトによって発光する様子は、まるでシャーフの絵画の中に迷い込んだかのような体験をもたらします。