2013年の展覧会

キース・へリングとポップワールド:レトロスペクト

2013年3月16日〜2014年1月6日

協力:高知県立美術館

後援:山梨県、山梨県教育委員会

北杜市、北杜市教育委員会

株式会社メディカル・プリンシプル社

本年度の展覧会「キース・へリングとポップワールド:レトロスペクト」では 80年代のニューヨークから世界へ羽ばたいたへリングが築きあげたポップ・ワールドを再考します。

今展では1982年にトニー・シャフラジ画廊で初の個展に出品した防水布に描いた貴重な絵画作品(Painted tarpaulin:高知県立美術館収蔵)を披露いたします。防水布はトラックなどの荷台に使用されるシートで、へリングはこの素材をよく用いました。伝統的なカンヴァスに拘らず、彼は身近にあるあらゆる素材をあえてカンヴァスにしたのです。ニューヨークで個展が開催された当時、彼は地下鉄の黒紙が貼られた広告版にチョークで描いていく「サブウェイ・ドローイング」ですでにニューヨークのアート界に名が浸透していました。広告版への落書きは端的なメッセージで、当時のストリートアートの主流だったタグの要素の強い、グラフィティー・アートとは一線を引いていました。サブウェイ・ドローイングは大衆へむけた一種のポリティカル・アートだったといえましょう。シャフラジ画廊の個展ではドローイング、彫刻、絵画作品を単に展示するだけでなく、画廊中の壁に描写し、まるでクラブのような空間を作り、大きな話題を呼びました。これまでの絵画・彫刻の概念や、グラフィティーの定義などにとらわれず、新しいスタイルの画廊展を提示したのです。

また今年はキース・へリングの版画作品中で大作の一つである「レトロスペクト(回顧)」もコレクションから初公開します。この作品が制作されたのは1989年。日本は平成となり、ベルリンの壁が崩壊し、四六天安門事件が起きた年です。アメリカでは冷戦が終結し、8年間に及んだレーガン政権が終わり、ジョージ・H・W・ブッシュが大統領に就任。巨額な赤字を抱えるアメリカとは裏腹に、日本のメーカーはその品質と技術的な洗練さでアメリカ製品を凌ぐようになっており、好景気が続いていました。そのような中でも、新興のコンピュータ産業は急成長を遂げ、予想もできないほどの新しい時代の幕開けを迎えることになりました。そして89年という年はいうまでもなく、激動の80年代を生きたキース・へリングの芸術活動の終焉ともなりました。「レトロスペクト」はそれまでへリングが繰り返し描いてきた人間と動物を独自のポップなイメージとして簡潔に再現しているのです。その中にはキースがストリートから発生したアートが瞬く間にアート市場で高騰し、アートが大衆のものでなくなった過程で生まれた「ポップショップ」も含まれています。それは彼がアーティストとしてその境界をどこまで拡張できるのか、限られた人生のなかで自分という箱の外に出ることができるのか、という挑戦でもありました。作品の中の一コマ一コマのどれもが動きのある生きた描写です。

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